新しい日常とアートギャラリー

インタビュー:ANOMALY

       ディレクター 山本裕子さん 

10年以上のキャリアを持つ3つのギャラリー、山本現代・URANO・ハシモトアートオフィスがユナイトしたことにより、2018年10月にオープンした現代美術ギャラリー「ANOMALY」。

 

ギャラリー名であるANOMALYは「正論や常識では説明不可能な事象や個体、変則や逸脱」を意味し、東京・天王洲にあるTERRADA Art Complexの4階を拠点に、多様な展覧会やトークセッション、パフォーマンスを企画し、様々な人が気軽に出入り、滞在できる「場」をつくり出している。

 

今回インタビューを行なったのは、ANOMALYでディレクターを務める山本裕子さん。この1年間を振り返りつつ、ANOMALYがどのような対策を取りつつ展覧会やイベントを開催してきたのか、ギャラリーのあり方にどのような変化が起きたのか、またコロナ以降の世界や芸術に対する想いを聞いた。

新型コロナウイルス感染拡大を受けて

■日本で新型コロナウイルスの感染者が初めて確認されたのは、昨年1月中旬のことでした。山本さんはいつ頃から感染拡大の影響を感じ始めたのでしょうか。

山本裕子(以下、山本):最初に影響を感じたのは、アートバーゼル香港が中止になった時でした。2019年の年末にアートバーゼル香港のディレクターと会ったのですが、その時は開催すると言っていたんですよね。「香港はSARSも経験しているので全く問題ない」と言っていたのですが、やはり感染拡大の影響によって中止になって。日本国内の感染例というよりは、海外でイベントをやることが不可能になってきたのだと、具体的にも心情的にも感染拡大の影響を感じました。

 

■感染が拡大した当初、感じていた懸念点はありますか。

山本:どの業界も同じような悩みを抱えていたと思うのですが、ギャラリーを運営する上で複数の視点を持つ必要がありました。ギャラリーは作家が新作を発表する場であり、展覧会を半年〜1年先まで組んでいます。その場をクローズすることが、作家にとってどのような意味を持つのか、このような状況下でギャラリーを開けて「作品を見にきてください」とお客様に言っていいのか、さらにはスタッフのウェルフェアについても考える必要がありました。この相反するいくつかの視点を踏まえて、どのようにギャラリーを運営するべきかを考えることが最も大変でしたね。また、これまでオンラインを利用して仕事をしてこなかったので、どのように仕事を進めていくのか、どのくらいギャラリーに出勤しなければならないのかなども考える必要がありました。

■コロナ禍になるまで、リモートワークはほとんど導入されていなかったということでしょうか。

山本:そうですね。休日に急遽仕事をする必要があった場合に少しするレベルの話で、しっかりとリモートワークをする体制はありませんでした。当初はすぐに導入できるかなと思ったのですが、いざ試してみるとギャラリーは情報だけでなく作品をはじめ「モノ」や「場」と仕事をしているんだなということを強く実感しましたね。

 

また、当ギャラリーには個人情報や作品の細かい情報が入っているデータベースがあるのですが、セキュリティの関係上クラウドなどにアップしていません。日本のギャラリーはどんなに大きくても10-15人規模だと思うのですが、その人数で大企業並みにセキュリティを強化することが難しいんですよね。ギャラリーの名簿録は非常に機密性が高く、万が一何かあったときに対応できないと感じたためオンライン化していません。経理などもそうなのですが、大事な情報ほどギャラリーに来てデータベースにアクセスしないと取れないようにしています。

緊急事態宣言下にChim↑Pomが制作した作品を展示した様子。

Chim↑Pom「May, 2020, Tokyo / A Drunk Pandemic」展示風景、2020年、ANOMALY

撮影:森田兼次

Courtesy of the artist and ANOMALY

ANOMALYにおける感染対策

■一度目の緊急事態宣言から現在にかけて、どのような対策を取られたのでしょうか。

山本:休館、時間短縮、日曜日も開けて人の流れを分散、入場制限、ソーシャルディスタンスの確保など、一般的なことは全てやりました。ギャラリーなので基本的に自由に鑑賞していただく形を取っていますが、ビデオの部屋は一番厳しい数で人数制限を行いました。一度に8人しか入れないよう人数調整を行ったり、整理券を配ったりしましたね。また、公開できる情報のオンライン化も進めました。

 

■昨年4月から6月にかけて一時休館されていたと思うのですが、どのように休館が決まったのですか。

山本:最初は新型コロナウイルスが一体どんなものか全然分かりませんでしたよね。電車に乗ったら感染するといった情報も飛び交っていました。それが現実的かどうかより、心理的な不安に繋がっているのであれば合わせて考慮する必要があると考えました。また、初期の段階では美術館がどのような対策を取るのかにも注目しました。似たような場所なので、参考にした上でスタッフの心身の健康も考え、緊急事態宣言になる前に一度休館したという形です。ただ、完全に在宅にはできませんでした。

 

■1フロアあたり何名程度入場できるようになっているのでしょうか。

ギャラリーの図面に実際に直径2mの輪を描いて、具体的に数を数えました。本来イベントなら150人くらいが入るスペースがあるのですが、入場できるのは1/3程度になりましたね。60人くらい。ただ展覧会なら同じ時間に60人が一斉に来場することはあまりありませんね。窓があるので換気を行い、1時間に1回は館内の人が触れる場所を全て消毒して回っています。

 

■ANOMALYではこれまでアーティストトークなども行っていましたよね。

山本:そうですね。これまで展覧会だけでなくトークやパフォーマンスなどの企画を必ず行ってきたのですが、それをコロナ禍でどのように実現させればいいのか最初は分かりませんでした。また、レセプションパーティーなどもできなくなってしまいましたね。最近は収容人数が150人程度の会場で40人ほどの規模でのトークを行っています。

 

また、遠方のお客様や関係者も沢山いらっしゃるのですが、「来てください」と言うことが難しい状況なのでミーティングなどはオンライン化しました。ただ、やっぱりずっとオンラインだと話がズレてしまうことがあるんですよね。オンライン上で顔を見ながら合意していたことが、実はうまく合意できていなかったりして。そのため、何回かに1度は対面で話すようにしているのですが、それ以外は基本的にオンラインで行うようにしています。

コロナ禍で開催されたイベントの様子。柳幸典展最終日に、森美術館館長の片岡真実とのトークイベントを開催した。

柳幸典 x 片岡真実 「Wandering Position 1988-2021」トークイベント、2021年、ANOMALY

Courtesy of ANOMALY

 

移動の制限による影響

■海外からのお客様も多いと思うのですが、何か変化はありましたか。

山本:一番変わったことが、当たり前ですが海外在住の人たちが来なくなったことですね。以前はすごく多くの方にご来場いただいていたので。既に知り合っている人たちにはオンラインで展覧会の説明や作品のプレゼンテーションを行っています。また、オンラインのセールスサイトを活用したりもしています。さらに、移動が制限されたことにより作品を輸送する際に遅れが生じたり、コストが高くなったりしました。現在は、その分前もって予定に盛り込むようにしています。

 

■オンラインで海外の方にプレゼンテーションされる際は、どのような形を取られるのでしょうか。

山本:基本的には美術館やコレクターの方、個別に行っています。私が行った中で特に印象深かったのは、Chim↑Pomの展覧会を見にくる予定だったドイツのお客様へのプレゼンテーションです。コロナ禍によって来日できないため、展覧会の内容や話を色々と教えて欲しいという要望があり、1時間程度のオンラインプレゼンテーションを行いました。その結果、作品を買ってくれたんです。海外の方で実見せず作品を購入なさる方は多くいるのですが、このように展覧会の説明を写真や動画を見せながら遠隔で行ったのは初めてでした。今ではどのギャラリーもオンラインツアーが当たり前になりましたね。

■展覧会、ギャラリーのあり方も変化してきているということですよね。ある意味、遠方にいる方や、普段来れない方にも作品を鑑賞してもらったり、売ったりできる可能性が広がったのではないでしょうか。

山本:はい。特に外国のギャラリーだと、より活発にオンラインを使ったプレゼンテーションが行われていますよね。展覧会場をヴィデオで巡って、作品の前で説明を行う、ということをお客様に対して沢山行っている印象です。

 

■ポストコロナ時代においても、このような形が続く可能性はあると思いますか。

山本:みんな実見したいという気持ちがあると思いますが、このコロナ禍によってオンラインで済んでしまうことも多いと気づいたかもしれませんね。また、ギャラリーとしてはオンラインのアドバンテージもあります。しっかりと時間をかけて個別に展覧会をアテンドするようなオンラインプレゼンテーションを行うと、作品を購入してくれたり。そこまですると「ありがとう」「すごく面白かった」と感謝されることが多くて、作品が売れる確率が高いです。これは商売的な話ですが。

DSC04578.jpg

Chim↑Pomが2019年にイギリス・マンチェスターで行ったプロジェクト(19世紀にコレラが蔓延した歴史に取材したもの)を、再構成し展示した様子。 

Chim↑Pom「May, 2020, Tokyo / A Drunk Pandemic」展示風景、2020年、ANOMALY

撮影:森田兼次

Courtesy of the artist and ANOMALY

​コロナ禍におけるアートマーケットの変化

■報道を見ていると、コロナ禍においてアートマーケットが拡大しているという話がありますよね。実感としてはいかがでしょうか。

山本:その通りだと思います。感染が広がり始めた当初は分からなかったため、これは大変なことになるなと思っていました。ですがそれは意外と杞憂で、ほとんど影響は受けませんでした。ある種の富裕層は、これまで旅行をはじめ”体験”することに沢山お金を使っていたのだと思います。コロナ禍によってそれができなくなり、お金が余っている人も多いのではないでしょうか。

 

■おうち時間が増えたことで家をもっと居心地よくしよう、コレクション集めてみようということへの興味が出てきた人も多いでしょうね。

山本:そうですね。あと富裕層やその総資産が増えているのではないかと思います。社会的なバランスで見ると、全然良いことではないと思いますが。

 

■インターネットで作品を見て、購入できるようなインフラが急速に整ったことも影響しているかもしれませんね。

山本:整ったというよりは、元々あったツールを駆使するようになったのだと思います。ただやはり限界があるなと感じることもあって。特にビデオ作品なのですが、シェアが一番楽なのでオンライン化しやすいかと思っていたら全然そんなことはありませんでした。フィジカルに暗い部屋にこもって大きな画面で体験するのと、コンピュータの画面で鑑賞するのでは体験も全然違っていて。むしろビデオの方が難しいかもしれないと感じました。

 

■確かに絵画の場合は、オンラインで見ると最初から想像とギャップがあっても当然と思うことが多いかもしれないですね。その点、ビデオは違うと思えないからこそ難しいのかもしれません。

山本:そうですね、絵画の場合はオンライン上と違って当然だと思いますもんね。ビデオも色や音がコンピュータの環境によっても大きく異なります。また、同じ作家の別の作品を実際に見たことのある人はある種のクオリティや作品の持っている力を既に体験しているため、それを踏まえてオンラインで鑑賞することができます。実体験があるからこそオンラインで買うにしても、展示をするにしても決断することができるんです。ただ、オンラインが初めての鑑賞体験の場合は同じようにはできないだろうな、簡単に置き換えられないことも多いだろうなと思います。そもそも、正しく伝えるとは何なのか?と考えることもあります。

激動の一年を振り返って

■この一年を振り返って、ANOMALYで取られてきたコロナ対策をどう評価されますか。

山本:評価としては世間並みかと。思うに、コロナの存在をみんな同じように捉えてないですよね。感じ方に個人差があるからこそ、個別に考えないといけないなと思いっています。また、コロナがこれだけ蔓延して気がついたことも沢山ありました。例えば、これまでみんな忙しく過ごしすぎていたと思うんですよ。しかし仕事を加速させてやればやるほど、減るのではなくて増えていくんですよね。それをこれまで延々と続けて良しとしてきたのですが、今では反省しています。一方急速な気候変動も深刻で、行きすぎた資本主義そのもののツケが回ってくるだろうと感じています。アート業界には鍵を握っている人たちがコレクターだったり美術館のボードメンバーだったりもするので、役割があると思います。もちろんコロナ禍ではない方がいいのですが、いい気づきにはなったかなと思います。

 

■意識の変化が起きているということでしょうか。

山本:そうですね。資本主義ってなんだろうと考えたり(笑)。こんなに加速してやらなくても良かったのか、といった気づきも多くありました。わざわざ会わなくても良かったのか、とか。ただ、ゼロにすることは不可能だと思います。今はまだ実態がある前提でのオンラインですからね。オンライン以外はもうないってことになればそれがある種の「実態」となるのでしょうが(笑)。意識は変わっても、今回の疫病が人間の活動を止めたように、次は気候変動などが強制的な変化をもたらす以外、資本主義下における人間には自力で現状をリセットする力がない、とも憂います。

■コロナ禍によって、来館者数の推移に変化はありましたか。

山本:数えてないので正確には分かりませんが、現時点ではあまり変わらないと思います。ただ、来館者の層は変わっていて、海外や地方から来るお客様はコロナ禍の影響で減っていますね。都内の人の足は緊急事態宣言下でなければあまり変わらず、むしろ最近は増えたかもしれません。特に1回目の宣言の時はみんな訳が分からず、当然緊張感もあったので結構外出を控えていた方が多いと思うのですが、今はもはや慣れてしまった感じがありますね。2回目の緊急事態宣言ではあまり影響を受けませんでした。

 

■今後の企画運営などの見通しはありますか。

山本:ライブにしてもトークイベントにしても、やはりフィジカルでやりたいなと思っています。会うと予想できないようなことが起きるので。コロナ禍でもそういった機会を完全に無くさないようにしなければいけないなと思っています。実際にこれまでオンラインで色々トライしてみたんですよ。アーティストにビデオレターを作ってもらったり、様子を伝えたりと色々やってみて、アーティストの新たな側面が見れたり、とても良い経験だったのですが、やはり現場の力強さも実感しました。

 

また、現在ある程度オンライン化が進んだため、私たちが日々やる仕事は慣れていくと感じています。美術館も同じで、アーティストが来日できないことはありますが、基本的に展覧会そのものは今後も開いていくでしょうし。むしろアーティストに変化があったかもしれないですね、作品そのものにも。自分がいなくてもインストールできるように考えないといけないとか、それによって作品の性質が変わったり、コンセプトに影響したり。

takuro_tamayama_anomaly_top.gif

現在、ANOMALYで開催中の玉山拓郎の個展の様子。

「When I was born when I was born」 2021 

©Takuro Tamayama  

Courtesy of ANOMALY

■他の美術館でもZoomなどを利用した展示作業が行われているというお話を伺ったのですが、実際に展示される空間にいるのとオンラインとでは全く異なる形になる可能性もあるなと感じました。

山本:人間って正面だけではなく、両脇も見えていますもんね。画面を360度にするのはまだ難しいと思いますが、インストールする時に空間全体を体感できないのは結構大変というか、致命的ともいえるのではないかと思います。特にインスタレーションだと。

ポストコロナ時代の文化芸術

■今後、新型コロナウイルス感染拡大は芸術文化のあり方にどのような影響を与えるとお考えでしょうか。

山本:作品のあり方が変わっていくのではないでしょうか。アーティストがいち早く考えますし、美術館やギャラリーのあり方は「場」である限り、あまり変わらないのかなと思いますが、それもアーティスト次第ですね。アートマーケットは収縮せずに大きくなっていくのではないかと思います。このまま少しずつ、もしくは良くも悪くも極端に大きくなるかもしれないですね。

 

■世界中を旅して展覧会を巡り、作品や展覧会を作るアーティストやキュレーターのあり方が変わるのではないかと感じているのですが、ギャラリストにとってはどうでしょうか。

山本:確かに私たちも展覧会に行ったり、アーティストに会ったり、フェアやミーティングがあったりと、世界中を巡っていますね。今はそれができない状況ですが、正直コロナと共存できるようになったらすぐに元に戻るのではないかと思っています。結構またグルグル回り始めるだろうなと思っていて。一般的には良いことなのでしょうが、個人的には残念に感じると思います。インターナショナルといわれていた時代、90年代くらいまではまだよかったと思うのですが、今では超資本主義、超グローバリズムみたいな状況になっていますよね。飛行機が飛びすぎて、人が移動しすぎだったところを、新型コロナという疫病は一瞬で世界中の工場を止め、店を閉め、経済を停滞させた。どんなに美しい人間の思想も、環境問題や資本主義を止められなかったのに、これは凄いことです。今回の出来事がいい揺り戻しになるかなと思ったのですが、人間ってすごくタフなので元に戻る力の方が強いのかなと思ったりもして。

 

■ワクチンが普及しはじめて、既にその傾向が少しずつ現れ始めていますよね。また、今後はコロナ禍でも移動できる人たちが出てきて、移動能力がアートヒエラルキーに繋がる可能性もあるのではないでしょうか。実際に作品を見たどうか、人と会ったどうかなどが強みになるというか。

山本:実体験を伴った経験をしていることが強みになるということですよね。実際にそれはあると思います。ただ、本来それは副次的なものですよね。昔の文学の例でいうと、澁澤龍彦って一度もフランスに行ったことがない時に誰より上手にフランス文学をプレゼンテーションできてたじゃないですか。ああいうことが今後も沢山起こるといいなと思いますね。考える力が大事で、情報や体験を一番持っている人が偉い訳ではないので、そうじゃなくなるといいですよね。

 

■コロナ禍によって移動ができなくなったことで、最初の頃にはこれまであった格差が無くなる可能性、面白さも感じました。条件が全員一緒になる中で、若いキュレーターが面白い企画をしたりしていて。格差が一旦リセットされて競争が始まったことが面白いと感じたんですよね。

山本:そうですね、そう思うとあと3年くらい動けない状態が続いてどうなるのか見てみたいですよね。でもそうすると、メディアの使い方に長けている人が強くなるかもしれません(笑)

 

若い世代の話をすると、コロナ禍になってから東京にあちこち空き家や空き店舗のような場所を利用したオルタナティブスペースがたくさんできましたよね。この1、2年で増えたところも数えると10箇所以上。時間がある時に見に行っているのですが、本当に面白いんですよ。入場料を取ったり、作品売ったり、投げ銭やクラウドファンディングをしたりして、ちゃんとスペースを運営できているたくましさもすごいと思いますし、東京が東京らしくなったなと思って。都市の隙間にアーティストが活動を差し込んでいくことは、とてもいいことですよね。大きなインスティテューションではなく小さい規模だからこそできること、大変面白いことを可能にしていて。コロナ禍ではなくても進んでいた活動かもしれませんが。

 

■確かにインディペンデントスペースが盛り上がり始めていますよね。先ほど山本さんがおっしゃっていたように、コロナ禍をきっかけに色々と考える時間を持った、価値観が変わったということも影響している気がします。

山本:大久保や上野、新宿など、あちこちに面白いスペースがありますよね。若くても本気でやっている人なら、もう発表する場がないという時代ではないなと感じました。アーティスト・ラン・ミュージアムもありますよね(笑)。TOMO都市美術館とか。

WHITE_HOUSE6_4.jpg
今年4月に新しくオープンしたオルタナティブ・スペース、WHITE HOUSE。
WHITEHOUSE
Photo: yurika kono
Courtesy of WHITEHOUSE

 

■国際芸術創造研究科の卒業生なども、東京のそういった活動に中心的に関わっていますね。

山本:The 5th floorもそうですよね。今は東京が一番多いですが、名古屋や広島にもそういった面白いスペースがあったりと、若者たちが連れって行ってくれたのですが、今後さらに変わっていく気がします。コロナ禍になっていなかったら、こういう状況にはなっていなかったかもしれませんね。場所が空いてなかったかもしれないし、その気になってなかったかもしれない。あと、アーティストたちは給付金が大きかったみたいですね。それは良かったみたいです。

 

■確かに同じ大学院生でも、「実は今人生で一番お金を持っている、それを制作費や活動に当てることができる」と言っている人がいました。

山本:そうそう(笑)それでもちろん制作するのですが、若手作家の作品はそこまで値段が高くないので、「お互いの展覧会を見に行った際に、作品を買ってしまいました!」と言っている人もいて。とてもいい話だなと思いました。

 

■コロナ禍の面白い取り組みといえば、展示される作品や展示会場などが非公開のまま開催された「ダークアンデパンダン」展も面白かったですよね。

山本:そうですね。特にあいちトリエンナーレの前後から、ネット上で表現の自由に対する暴力的な声が増えましたよね。「正義」を纏った人から情報操作的に批判されることが日常茶飯事になり、ギリギリなことができない時代になってしまったなと感じている中で開催された、招待制の展覧会でしたね。

 

■コロナ禍以前から企画していたと伺ったのですが、コロナ禍で輝きを増したというか、時代とのシンクロしたことによって意味を増した展覧会だったように感じました。

山本:コロナ禍でなければ、そもそも場所も空いていなかったりして(笑)。プラクティカルな意味で「ダークアンデパンダン」展が実現したのはコロナ禍だったからだと思うので、いい面もあったというか。ただ、その一方でアーティストがチャレンジしたいギリギリの表現って、もうああいう形でないと発表できない時代なのかもしれないなとも感じました。「新宿WHITE HOUSE」も会員制ですよね。アーティストたちは何より自己規制するようなりたくないと思っていると思うのですが、現在の日本にはクローズドじゃないと作品を発表することが難しい状況があるのだと思います。

世界的な新型コロナウイルスの流行は、美術館や博物館だけでなく、ギャラリーにも大きな影響を与えた。実際に作品を鑑賞、体験する場であったギャラリーは、移動や人との接触が制限されたコロナ禍において、そのあり方そのものを揺さぶられたのだ。昨年は感染拡大によって臨時休館やアートフェアの中止、来場者数の減少などが生じ、先行きの見えない日々が続いた。果たして今後どうなってしまうのか、そう懸念を抱いたギャラリストも少なくなかっただろう。

 

ANOMALYは、この一年間感染対策に加えプログラム内容の変更、人数制限などを行い、細心の注意を払って展覧会を開催してきた。現在ではリアルな展覧会やイベントだけでなく、オンラインプラットフォームを活用した販売やプレゼンテーションを行うなど、新たなギャラリーのあり方を模索している。ポストコロナ時代においても、ギャラリーがウェブサイトやSNSを通して作品を公開、販売していく形は続いていくだろう。しかし、人と作品が出会う場であるギャラリーの本質的な価値を忘れてはならない。

 

現在行われているオンライン展示や販売は、あくまでもこれまで存在したギャラリーという現実の場、ギャラリストがアーティストやコレクターと構築してきた関係性の上に成り立っている。また、作品をオンライン・オフラインで鑑賞することの意味、可能性と限界についても考えなければならない。現在、コロナ禍においてオンライン化が急速に進められているが、コロナ時代・ポストコロナ時代を見据えながら芸術とのつきあい方の検討する必要があるのではないだろうか。

 

また、コロナ禍における文化芸術の話をするとアートシーンが受けた打撃の大きさに注目が集まりがちだが、山本さんの話からも分かるように現在国内の現代アート市場は盛り上がりを見せている。ギャラリーの売り上げは感染拡大直後に一時落ち込んだものの比較的好調で、今年3月に開催されたアートフェア東京2021は来場者が4割減ったにもかかわらず過去最高益を記録した。また、SBIアートオークションの「第44回モダン&コンテンポラリーアートセール」の最終的な取引総額は10億4000万円となった。その背景には、お金をアートに使用するようになった富裕層の存在がある。今後は、新型コロナウイルスによる被害の大きさだけでなく、むしろ好調なアートマーケットの動向も注視していく必要があるだろう。

文責:小田部恵流川

取材日:2021年4月15日(木)

玉山拓郎  個展

Anything will slip off / If cut diagonally

2021年7月17日 (土) - 8月14日 (土)

http://anomalytokyo.com/exhibition/takuro_tamayama

takuro_tamayama_When I was born when I was born.jpeg

「When I was born when I was born」 2021 

©Takuro Tamayama  

Courtesy of ANOMALY

日月祝休廊

火・水・木・土 12:00 - 18:00

ANOMALY 140-0002 東京都品川区東品川1-33-10-4F

tel&fax. 03-6433-2988

http://anomalytokyo.com

玉山拓郎 (たまやま・たくろう)

1990年、岐阜県多治見市生まれ。 愛知県立芸術大学を経て、2015年に東京藝術大学大学院修了。現在、埼玉県在住。 近年の主な展覧会に、「開館25周年記念コレクション展 VISION Part 1 光について / 光をともして」(豊田市美術館、2020年)、「VOCA展2020」(上野の森美術館、2020年)、「Euphoria」(TICK TACK、アントワープ、2019年)、「The Sun, Folded.」(OIL by 美術手帖、2019年)、「Takuro Tamayama and Tiger Tateishi」(Nonaka-Hill、ロサンゼルス、2019年)、「思考するドローイング」(500m美術館、2019年)、「Dirty Palace」(CALM&PUNK GALLERY、2018年)、「ASSEMBRIDGE NAGOYA 2016 パノラマ庭園 -動的生態系にしるす- 」(MAT Nagoya、2016年)など。

ご来廊に際してのお願い

*非接触の体温計にて体温測定させていただくことがございます。

*3密を避けるため、できるだけ少人数でお越しいただきますようお願いいたします。*マスクの着用と、入場前に手指のアルコール消毒のご協力をお願い申し上げます。

*発熱や咳等の症状があるお客様はご来廊をご遠慮くださいませ。また検温により、入場時に37.5℃以上の場合、ご入場をお断りさせていただきます。

 

弊ギャラリーの対応について

・スタッフは全員、毎朝体温を測定し、健康状態を確認のうえ出勤しております。

・換気を行ないながら、営業いたします。

・スタッフは手洗いや手指の消毒をし、マスク着用でご対応いたします。

・お客様がお手を触れる場所の消毒を徹底いたします。

 

展覧会開廊日と時間について

・今後の社会情勢により、営業時間の変更などや、やむを得ず休廊となる場合がございます。

・最新情報は随時ウェブサイトにてお知らせいたしますので、ご来場前にご確認くださいませ。

© Copyright Protected