コロナ禍におけるアートスペースの現状

インタビュー:TOKAS本郷職員 小野洵子さん 

トーキョーアーツアンドスペース(TOKAS)は、若手アーティストの育成支援機関トーキョーワンダーサイトとして2001年に創設され、2017年にトーキョーアーツアンドスペースに名称変更されたアートセンターである。

 

滞在制作やリサーチ活動の拠点となる「TOKASレジデンシー」と発表の場としての「TOKAS本郷」の2館を中心に、開館以来幅広いジャンルの活動や領域横断的・実験的な試みを支援し、同時代の表現を東京から創造・発信している。

 

今回インタビューを行ったのは、TOKAS本郷で働く小野洵子さん。新型コロナウイルスの感染が拡大する中でTOKASにどのような変化が起きたのか、どのように展覧会やイベントを開催してきたのか、またポストコロナ時代の芸術やアートスペースのあり方に対する想いを聞いた。

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パンデミックとTOKASの変化

■新型コロナウイルス感染拡大の影響を感じ始めたのはいつ頃でしょうか。

小野洵子(以下小野):最初に影響を感じたのは、2020年2月に計画されていた他の職員の香港出張が中止になった時でした。その後、日本国内の美術館や文化施設が休館を発表しはじめ、TOKASは今後どうなってしまうのだろうかと考えるようになりました。

 

■感染が拡大し始めた当初、新型コロナウイルスに抱いていた印象はどのようなものでしたか。

小野:最初は近いうちに収束するだろうと考えていました。しかし、実際には全く見通しが立たなかったため、不透明な状況の中予定されている展覧会やプログラムの準備を続けるしかありませんでした。休館をはじめTOKASの運営方針は東京都の方針に則って決定されるため、展覧会を運営する上で関わる作家や業者に、方針が決定するまで連絡できないことに困っていましたね。

 

■一度目の緊急事態宣言から現在にかけて、どのような対策を取られてきたのでしょうか。

小野:コロナ禍になってから開催した展覧会が6企画あります。一つ目がACT (Artists Contemporary TOKAS) Vol. 2「停滞フィールド」展です。これまでTOKASのプログラムに参加したアーティストを中心に開催される企画展だったのですが、2月22日にオープンして1週間で休館することになってしまいました。最初はそのうち再開するだろうと考えていたのですが、結局なかなか事態が収束せず、再び開くことなく中止になってしまいました。

 

■二つ目の展覧会は「TOKAS-Emerging 2020」ですね。

小野:はい。こちらは35歳以下のアーティスト対象にした公募展なのですが、4月4日から開幕予定だった第1期は、緊急事態宣言が発令されたため中止となってしまいました。第2期は 5月16日開幕予定を6月2日に延期し、会期を延長してなんとか実施することができました。

宮川知宙「TOKAS-Emerging 2020 『スーパーゴーストカミカゼアタック!!』」(TOKAS本郷、2020)

写真:加藤 健

■こちらの企画内容に変更はありましたか。

小野:観客を入れる予定だったオープニング・トークは中止し、審査員による非公開の講評会を行いました。また、この展覧会からコロナ対策を開始し、受付では来場者に検温、マスクの着用、手指の消毒をお願いするようになりました。受付スタッフはフェイスシールドと手袋を着用するようになり、受付にアクリル板を設置したことも変化の一つです。 さらに、定期的にドアノブや手すりなどの共有部の除菌を行うようになりました。

■リモートワークなど、働き方に変更はありましたか。
小野:緊急事態宣言の発令を受け、4月13日からリモートワークが実施されるようになりました。この時は基本的に全員が自宅勤務を行い、必要に応じて設営や非公開の講評会の際は出勤していました。現在も引き続きリモートワークが推奨されていますが、展覧会を開催する際には実際に現場に赴く必要があるため、本郷の職員は出勤しています。

​国境を越えて

■7月から9月に開催された展覧会はクリエーター・イン・レジデンスの成果展ですね。海外の作家も参加されていたと思うのですが、どのように実施されたのでしょうか。
小野:トーキョーアーツアンドスペース レジデンス 2020 成果発表展 「デイジーチェーン」は、2019年度にレジデンスプログラムに参加したアーティストが成果発表する企画でした。本来は海外からも作家が来て作品を発表する予定だったのですが、コロナの影響で渡航できなくなってしまったためリモートでの設営となりました。

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「トーキョーアーツアンドスペース レジデンス2020 成果発表展『デイジーチェーン』」(TOKAS本郷、2020)

写真:髙橋健治

■作品は海外から輸送されたのでしょうか。新型コロナウイルスの影響で遅れなどは生じませんでしたか。

小野:輸送しました。レジデンスで滞在制作を行った後、各アーティストの拠点で制作を進めたものを発表する展覧会ですので、海外から輸送した作品や映像作品を展示しました。また、輸送にはかなり遅れが生じていたため、普段であれば一週間もあれば到着するような距離でも余裕を持ち、一ヶ月前など早め早めに送ってもらいました。また、この頃からトークの代わりに展覧会の3DVR やインタビュー映像の制作もはじめ、オンライン化によって活動が広がりを見せたことを覚えています。

 

■TOKAS Project Vol. 3「東京デトロイトベルリン」展はどのような展覧会だったのでしょうか。
小野:東京とデトロイト、ベルリンにあるアーティスト・ラン・スペースの活動の紹介をする展示です。海外を拠点とするアートスペースのディレクターが来日予定だったのですが、残念ながら渡航は中止となってしまいました。 そこで対面でのトークの代わりにディレクターのインタビューを撮影し、展示の記録映像も制作しました。 また、オンラインでのトークを開催し、その記録を展覧会カタログにまとめました。 この時もフライトの減少により、作品輸送の日数が通常と比べて長くなりました。また、元々ディレクターが作品を手持ちで運んでくる予定だったため、輸送費も高くなりました。

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「TOKAS Project Vol. 3『東京デトロイトベルリン』」(TOKAS本郷、2020)

写真:田中和人

■3カ国の共同プロジェクトだと時差の問題が生じたのではないかと思うのですが、会議の時間の調整などはどのように行われたのでしょうか。
小野:私が担当したわけではないのですが、時差の影響によって通常より遅い時間や早い時間にミーティングが行われていました。オンラインのトークは全員が起きている時間に合わせ、日本時間の夜9時から実施しましたね。

 

​オンライン/オフラインを用いた取り組み

■「OPEN SITE 5」は11月から今年の2月まで開催されていましたね。私も会期中に伺いました。

小野:OPEN SITEは企画公募プログラムで、展示企画とパフォーマンス企画があったため、新型コロナウイルスの感染対策を一層注意しなければなりませんでした。公募は昨年の3、4月に行われたのですが、2次審査が1度目の緊急事態宣言中に実施されたため、対面面接がZoom を使用したオンライン面接に変更となりました。

 

展覧会が開幕してからはオープニング・トークをライブ配信し、アーカイブとしても視聴できるようにしました。また、例年パフォーマンスは1階で行っていたのですが、会場がより換気可能な 3 階に変更となりました。距離を2m以上開けられるよう東京都の基準に基づき観客数を20 名以下に限定し、当日券なしの完全予約制にしたことも大きな特徴です。会場の混雑や金銭授受の機会を減らすため、オンラインのチケットシステムを導入しました。 また、パフォーマーにはマウスシールドを着用してもらい、手指用消毒液も設置しました。

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どうぶつえん「OPEN SITE 5『どうぶつえん in TOKAS 2021』」(TOKAS本郷、2021)

写真:bozzo

■2回目の緊急事態宣言の影響は受けなかったのでしょうか。

小野:年末の時点でかなり感染者数が増えていたため、感染拡大防止のためPart 2の最初の3日間である1月9日〜1月11日は臨時休館となりました。1月8日に緊急事態宣言が発令されたのですが、1月12日以降は無事に会期最後まで開けることができました。少し話は変わりますが、最近そこまで混み合わない場所が休館している一方で、かなり人の集まる場所は開館しているというような状況に矛盾を少し感じています。

■今年の春に行われたACT (Artists Contemporary TOKAS) Vol. 3「停滞フィールド 2020→2021」展は、昨年度新型コロナウイルスの影響により中止になった展覧会を再構成したものですよね。

小野:そうです。参加作家は同じなのですが全く同じ作品を展示したわけではなく、2020→2021というタイトルからも分かるように一年間の滞っていた時間や、環境をはじめとする様々な変化を反映した作品が発表されました。

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渡辺 豪《自分の成分》2020 「ACT Vol.3『停滞フィールド 2020→2021』」(TOKAS本郷、2021)

写真:加藤 健

この1年を振り返って

■感染拡大から1年が経ちましたが、TOKASでの新型コロナウイルス対策をどのように評価されますか。

小野:最も大きな変化は、観客を入れてのオープニング・トークがオンラインでのトークや記録に変更になったことだと思います。遠方の方など、以前より多くの方にご参加いただけるようになった一方で、質疑応答などの相互コミュニケーションができないため、直接的な来場者との交流の機会が減ってしまったなと感じています。

 

■コロナ禍において、来館者数に変化はありましたか。また、オンライントークの視聴者数はどれくらいなのでしょうか。

小野:来館者数は平均して前年度比75%くらいでした。やはり新型コロナウイルスの影響を受けて、全体的に少し減少していると思います。一方で、オンライントークの再生回数は200〜300回くらいですね。対面だと多くて60〜70人が限界なので、オンライン化したことにより参加者がかなり増えていると思います。

 

■また対面開催ができるようになった後でも、併用したらよりアクセスできる人が増える可能性がありそうですよね。

小野:そうですね。アーカイブにもなるので展示の記録という面でも良いなと思っています。トークのオンライン化や、展覧会風景の記録を写真だけでなく映像でも残すことを今後は継続して力を入れていきたいと考えています。

■コロナ禍になって1年が経ちましたが、働き方に変化は起きていますか。

小野:他のスタッフにも聞いてみたのですが、運営側も作家側もコロナに対する余裕が少し生まれたように感じます。具体的には、遠隔での設営やオンラインでの参加などに慣れてきたことが挙げられます。事前にある程度計画を立て、実際に作品を設置してみて、最終確認を行うためにZoomなどで連絡を取るようにしていますね。

TOKASと今後の展望

 

■TOKASでは、普段どのくらい先まで展覧会の予定を決めているのでしょうか。コロナ禍を受けて、将来的に変更される点などはありますか。

小野:プログラムの大枠は基本的に毎年固定となっています。先ほど紹介したACTやEmerging、レジデンス成果展、TOKAS-Project、OPEN SITEというプログラムは毎年開催していて、その内容や参加作家が毎年変化する構成です。

 

コロナ禍による変更も起きています。例えば、昨年はレジデンスプログラムがほとんど中止になってしまったため、今年度の成果展に参加する作家がかなり減ってしまいました。また、OPEN SITEという企画公募プログラムも、今年度は日本在住者が条件になっています。万が一海外から渡航できなくなった場合でも、企画者自身が設営・撤去できることが条件となりました。

 

■新型コロナウイルス感染拡大は、芸術文化のあり方にどのような影響を与えるとお考えでしょうか。

小野:TOKASで発表する作家は若手作家が多いのですが、展覧会のために準備しても実際に発表できるか直前まで分からない状態が続いており、精神的にも金銭的にも負担になっているのではないかと考えています。また、3DVRや映像インタビューなどで展覧会の記録を残すようになり、移動が制限されても海外や遠方の人が展覧会を体感できるようになったことはいいことだと思う一方で、作品をその場で鑑賞することの意味が改めて問われているのではないかと考えています。

 

■TOKASの特徴の一つとして、海外の派遣事業やレジデンスなども含め20-30代の若手作家が活躍する場であることが挙げられると思います。ある意味登竜門のような場でもあると思うのですが、若手作家支援のような機能はやはりコロナ禍の影響を大きく受けているのでしょうか。

小野:そうですね。展覧会の参加作家には支援金をお支払いしますが、それで制作費全てを賄えるわけではありません。特にコロナ禍においては、展覧会が開くのか開かないのか分からないまま準備を進めてもらうことが、スタッフとしてもとても心苦しかったです。

 

■新型コロナウイルスを受けて企画されたプログラムなどはありますか。

小野:現在は、交流の機会を展覧会事業の中でどのように展開できるのかを考えています。レジデンスプログラムでは、オンラインで定期的に打ち合わせをして作品制作を行うオンライン・レジデンスを実施しています。

昨年から続く新型コロナウイルスの世界的流行は、アート業界に深刻な影響を与えている。感染が拡大したことによって展覧会やイベントの中止・延期が相次ぎ、多くの美術館やアートスペース、アーティストの活動が制限された。作品発表の場が減ったことによって、特に大きな影響を受けたのが若手作家である。私の周りにも、展覧会が中止になってしまった作家が多く存在する。

 

TOKASは若手作家の作品発表や企画展、公募企画だけでなく、国内外のクリエイターが対象であるレジデンス・プログラムを実施するなど幅広い活動を展開している。若手アーティストの育成支援機関として創設されて以来、東京において若手作家が作品を発表する重要な拠点となっているのだ。

 

新型コロナウイルスの影響は、そんなTOKASにも及んだ。お話を聞く中で小野さんをはじめとするTOKASスタッフの皆さんが、展覧会を開催するために企画内容の変更や感染対策に奔走されたお話が強く印象に残った。現在では、リアルな展示だけでなくオンラインなども活用しながら多様な展覧会・プログラムが展開されている。

 

感染拡大から1年以上が経った現在、まだ事態が収拾する見通しは立っていない。依然として厳しい状況にある作家や文化芸術活動にきちんとした支援が行われること、いち早くこの状況が改善されることを強く願う。

文責:小田部恵流川

取材日:2021年4月7日(水)

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